SONY ICF-9630

Serial No.118244

概要

ICF-9630は、FM/AMのホームラジオです。余り場所を移動させない前提で、電源はAC100のみで電池では使えない仕様です。外観は木目調ですが木質の材料ではなくてプラスチック製で、外側に木目がプリントされています。イヤフォン端子はありません。
グレード的には価格を押さえたエントリーモデルで、機能的はボリューム、チューニングダイヤル、バンド切替スイッチのみの最小限の構成です。本体ケースも凝ったものではありません。しかいながら、本体が大きくて内部に十分な空間があり、スピーカーも10cm程度でしっかりしたものが付いていることもあってか、小型のラジオと比べると、ずっと厚みのある良い音がします。
SONYのエンブレムの上に、"Fidelity Sound"の枕詞がついています。Hi-Fiという言葉は、真空管の時代からセールスに使われていたと思いますが、この一つ前のモデルぐらいから、据え置きタイプの木目調ラジオに付けられています。とくにシリーズ名としてカタログに載っていたりするわけではないみたいです。前述のとおり、実際、躯体・スピーカーが大きいので良い音がでると思います。
100V専用モデルですが電源スイッチは2次側についており、コンセントをさすと1次側は常に通電状態になります。トランスの損失分熱になっており、ラジオを聴いていなくても、トランスは暖かくなってます。トランス設置部の底面は、冷却のためかスリットになっています。半導体の価格もこなれてきたのか、整流はシリコンダイオード4本を使う全波整流です。
この電源トランスですが、1次側の片方のラインと、2次側整流後のDCのGNDラインが、3.3MΩの抵抗で接続されていますが、働きがよく理解できていません。アース代わりなのでしょうか。
回路的には、高周波～中間周波は従来のトランジスタ回路、低周波部分がICとなっています。トランジスタは6石使われており、AMの局発・混合に2SC929, FMの高周波増幅、局発・混合、中間周波に2SC930 x3, AM/FM共用の中間周波増幅に、2SC930 x2が使われています。
ICは、三洋のLA4201という低周波増幅用のICが使われています。SEPPをパッケージにしたオーソドックスなICで、コンデンサー類の外付けのみでオーディオアンプが構成できます。このラジオの出力は1.6Wとなっていますが、ICには放熱板は取り付けられていません。この出力であれば、プリント基板及びその銅箔の面積を伝熱面とすることで、放熱が満たせる設計になっているようです。このラジオのIC取り付け部の銅箔も広くとってあります。

仕様

発売:

1978年 (昭和53年)

電源:

AC100V

トランジスタ等:

1 IC, 6 TR

音声出力*:

1800 mW

バーアンテナ:

L=80mm

スピーカー*:

100mm, 8Ω, 2W

操作部:

チューニング、電源スイッチ付きボリューム、バンド切替スイッチ

表示等:

受信周波数:

AM:: 530 - 1605 kHz
FM:: 76 - 90 MHz

ターミナル:

FMアンテナ、アース

シリーズ・ニックネーム:

サイズ:

W310 mm x H205 mm x D120 mm

重量:

色:

茶（木目）

製造:

台湾製

価格*:

8,900円

メンテナンス

コードの痛みがひどく、また、古い機器ですので、いきなりコンセントに繋ぐのは抵抗がありましたので、乾電池駆動のテスト用DC電源でまずは動作確認しました。幸い、サービスマニュアルがありいろいろ情報がえられました。DCの供給電圧は16.5Vです。両バンドとも受信は問題ありませんでした。100Vの電流表示・制限機能のあるAC電源があると安心して動作確認できそうですので、宿題にしたいと思います。

一次側のDC抵抗(100Ωぐらい)、ケース・二次側への導通がないことを確認し、100Vで確認しました。

外観ひどくは傷んでいませんがくすんだ感じです。アンテナ端子が内部のネジに錆があり、保管条件はあまり良くなかった感じです。

昔ながらのMDFの裏蓋を外したところです。裏蓋はそりがひどいですが、無理に曲げると折れそうで、なかなか直せませんでした。中はゆったりしています。基板上のパーツも余裕の密度です。

本体の樹脂がかなり傷んでおり、ABS樹脂特有の弾性が無くなっている感じで、コードを留めるためのクリップ状の突起や、ビス受け、電源コードの固定部等、折れ割れが発生していした。

基板とスピーカー、トランスはビスを外せば分離できます。この状態で動作確認しました。基板は上方向に引気抜いてから持ち上げる感じです。チューニングメカとはピニオンギアと内歯車が噛んでいるだけですので、そのまま分離できます。

つまみは、布を巻いたマイナスドライバーで簡単に引き抜けました。

裏蓋のネジ受け、兼電源コードの固定のための部品ですが、樹脂が劣化して欠損・折損していました。

外したつまみですが、メッキ部分に緑錆びが出ています(写真)。メラミンスポンジでもあまりとれないため、金属へらで、でこぼこ感がなくなるところまで、慎重に削りました。ましにはなりましたが、ぴかぴかにはなりませんでした。

基板取り外し、本体前面側のパーツを清掃しました。

周波数表示部の透明樹脂は脱落していました。爪のようなもので留まっていたようですが、欠損していますので、両面テープ止めとしました。

電源コードの絶縁被覆は可塑剤が抜けたのか硬化して柔軟性がなく、表面がねとねとしています。破損して銅線が露出しているところもありました。修理困難で交換しました。

アンテナ・アース端子はさびさびです。また、このパーツを押さえている裏板が反っているため、十分に固定されていません。

電源コードとトランスは、CE2と呼ばれている被覆付きの圧着端子留められているようでした。端子自体はホームセンターでも売っていて、それほど高額ありませんが、専用工具5000円ぐらいで、このためだけに購入するのも何でしたので、より線にもつかえるコネクターで接続しました（灰色のコードは、取り外したオリジナルの100Vのコードです。）

裏ふたのネジ受け兼電源コードの固定スペースになっている部分が破損してしまっています。ネジ穴の方はエポキシパテで埋め、本体への固定はメタルロックという、強力接着剤で接着しました。この部分にコードをゆっくりと巻き付けました。ストッパー代わりになっていることを確認しました。

電源コードはこんな感じで巻かれています。

組み立て直しました。ターミナルはサンドペーパーで磨きました。

IC LA4201です。小さい放熱板を取り付けられる金属の出っ張りがありますが、このラジオではこの部分を、基板にはんだ付してあります。

清掃後の基板実装面です。

パターン面になります。左上がICの取り付け部分で、銅箔が広く取られています。バリコンの駆動は大きな内歯ギアがつかわれています。

スイッチ付きボリュームは空中配線ではなくて、しっかりとした基板が使われています。

カタログ情報等

ソニー製品のしおり

ソニー製品のしおり 31 (1979), p46
ソフトで豊かな音質、居間に一台
手ごろなホームラジオ(FM/AM)
ICF-9630 ￥8,900(税別)

前面スピーカーグリルは木目調、キャビネットはソフトな音質が得られる仕上げ、調和のあるデザイン
大型で合わせやすいスライドルールチューニング
10cmスピーカー採用、出力1.8W(EIAJ/AC)
FM/AM2バンド
お求めやすい価格、居間に一台、ホームラジオ

本体左上に、"Fidelity Sound"のプレートがありますが、カタログにはとくにシリーズ名的な説明はありません。ソフトな音質が得られる仕上げとは、なんのことを指しているのかは分かりません。同時期に発売されていたICF-9640は、上位機種で素材や機能等がより充実しています。

2022/08/08