SONY ICF-EX5

Serial No.24649

ICF-EX5は、4バンドのポータブルサイズのICラジオです（バンド切替SWが4ポジションなので4バンドとしています）。機能面からICF-S5の後継にあたる思われます。FM, MWの他、NSB（現在のラジオ日経）が2プログラムが受信できます。日本国内向けに放送されているラジオ局をすべてカバーするというコンセプトのラジオだと思います（NHKワールドラジオの短波放送は、日本語放送もありますが海外向け放送扱いか）。
ソニーは1980年頃から「ザ・感度」という高感度を売りにしたシリーズをラインアップしていますが、このラジオは、更にその上を行く「ザ・エクストラ感度」というラインアップで発売されています。取説に「バーアンテナ180㎜」とか妙に具体的な記載があったり、高感度をアピールしています。ただ、実際の感度とかSN比とかは、開示されていないようです。
前面の半分ほどを、中波のダイヤルスケールに割いており、日本の各地方の主要放送局が表示されています。市販のラジオのなかで、中波の受信感度が最も高いラジオの一つだったようで、夜間は遠くの局を聴取できるポテンシャルがあります。高感度以外に、AM(MW,SW)については「同期検波」と言われる混信やフェーディングを低減する回路が採用されており、セールスポイントの一つになっています。感度は並みであるも、選択度や同期検波の性能が良好とレビューしている方も見えます。
中波はダブルコンバージョンとの情報がありますが、高感度をアピールしている取扱説明書には、その記載はありません。基板を見ると、多くのIFTが確認でき、シールドの中にもIFTのような調整口がありますので、シールドあたりがそうなのかなという感じはするのですが、資料もなく、シールドを外すのもいじり壊しそうで気が引けており、はっきりしません。
同期検波の名前は、位相と周波数を搬送波に同期させた信号を発振器で作り出して検波に用いるところから来ているみたいです。振幅変調(MW, SW)の放送は、放送周波数（搬送波）の上側と下側に、同じ音声信号を含む帯域(LSB、USB)があり、通常は上下両方合わせた信号が取り出されます。このラジオは、検波切替スイッチのNORMAL、LOWER、UPPERのポジションがあり、NORMALの受信状態が良くないときは、LOWER / UPPERのどちらか一方のみのバンドに切り替えることで、受信状態が改善される可能性があります。
上下の帯域は、搬送波から遠い側に高音の成分があるため、例えば、目的周波数よりもセットが高い場合、UPPER側にすると高い音質に、LOWER側にすると低い音質になります。両帯域とも妨害などが無い場合,UPPER/LOWERの両方の音質・音量が等しくなるところが、ベストチューニングになります。
中波はダイヤルスケールに大きな場所を取っており、このラジオのメインと思いますが、そのスケールはリニア（等間隔）になっており、周波数合わせがやりやすくなっています。通常、同調に使うバリコンは、回転角度に対して直線的に増減するので、周波数が高くなるほどスケールの幅が詰まってます。リニアスケールは、前機種と思われるICF-S5から採用されています。
リニアスケールに、どのような仕組みが採用されているかわかりませんが、バリコンやチューニング機構は通常のラジオと変わりない感じです。真空管時代からあったみたいですが、容量が回転角の-0.5乗で変化するような特殊なものが使われているのかもしれません。ただ、ポリバリコンが一般的なものよりもだいぶ厚いです。
指針はダイヤルヤーンで動いていますが、選局つまみからバリコンまでは、各種のギアで駆動されています。そのためもあってか、周波数の微妙な調整がやりやすくなっています。
短波は前述の通りNSB専用になっています。近年の一発選局はPLLが主流になっている中、このラジオは設計が古いためか、受信周波数に合わせたクリスタルを使ったタイプです。1970年代のラジオでは、クリスタルを別売で購入し、必要時にジャック差し込むタイプが多かったですが、このラジオは、内部に各周波数別にクリスタルが6個取り付けられており、精度良く発振させることで、対応する放送周波を中間周波に変換しているようです。
クリスタルの実際の振動数は、受信周波数に中間周波を足し合わせたものになります。一番外側のクリスタルのところの基板に、10210の文字が書かれており、受信周波数の9760kHzを引くと、短波帯の中間周波は450kHzのようです。
FMはモノラルで大きな特徴はありませんが、大型の躯体で内部に空間もあり、スピーカーも10cmと大きなサイズを使っていることもあってか、結構いい音で鳴るように思います。
同期検波の採用、中波の感度・選択度の良さから根強い人気があったようで、1985年に発売されて以来、2001年に内部の回路は大きく更新されるものの（回路の変更や、表面実装を主とした基板に変更されたようです）、24年の長期にわたり発売されていました。
人気機種で長期販売されたこともあり、国内外含めて根強いファンの方が、使用レポート等、いろいろと記事を書かれています。
2009年に後継のMK2が発売されていますが、アナログテレビ放送の停波に伴い、90-108MHzに記載されていた、CH1,2,3の表記を改めただけで、中身は変更されていないようですので、実質的には30年以上のロングセラーです。ネット上にもいろいろな記事が取り上げられています。日本語で放送局名が書き込まれているにも関わらず、海外でも購入する趣味人も見えたようですが、残念ながら後継のMK2も2018年に製造中止となりました。
手元にあるものは2001年以前のもので、旧来の挿入実装のプリント基板です。基板は2枚使われており、ICはメイン基板に2個、サブ基板に1個の合計3個は確認できます。サブ基板のICの番号がIC4となっており、iC3が見つかりません。シールドの中にあるのかもしれませんが、資料等も無く分かりません。
メイン基板のIC1は、LA1205で、三洋のICで、AM及びFMの中間周波増幅を行っています。μPC324は、4回路入りのオペアンプで、位相シフトやフィルター等、同期検波に必要な操作に使われていそうです。IC4は三洋のLA4550で、AFアンプICで、サブ基板にあります。なぜか、本家ソニーのICが見当たりません。

仕様

発売：

1985年

電源：

単2x4 (6V)

トランジスタ等：

3 IC, 14 TR (?)　(前期)

バーアンテナ：

約180 mm

スピーカー*：

100mm

最大出力*：

1300 mW (JEITA),

操作部：

ボリューム、チューニング、電源SW、トーン切替SW、AM感度切替SW、バンド切替SW、NSB周波数切替SW、検波切り替えSW

表示等：

同調LED、NSB周波数表示LED

受信周波数*：

MW:: 530- 1605 kHz
FM:: 76 - 108 MHz (TV 1-3 Ch)
NSB1:: 3.925, 6.055, 9.595 MHz
NSB2:: 3.945, 6.115, 9.760 MHz

ターミナル：

イヤホン、DC IN (6V)、アンテナ(MW,NSB)、アース

サイズ：

W255mm x H145mm x D57mm

重量：

973g

色：

ガンメタリック

シリーズ：

ザ・エクストラ感度

製造：

日本製

価格*：

15,900円

メンテナンス

本体を振ると、からからがたがた音がなります。ラジオは受信できましたが、同期検波のUPPERは全く受信できませんでした。からから音は、スピーカーを固定している樹脂突起が破損して外れていました。

外れたスピーカーは、折れた樹脂ぶの片方が見つからないことと、試しにボンドで固定しましたが、スピーカーを固定している鋼線の力相当強いためNGでした。弾性系の接着剤と木のステーで止めました。

同期検波UPPERの不調は、最初は切替SWの故障と判断してSWを分解確認しましたが、結果的には、ここが原因ではないことが判明しました。パターンを追っていった結果、スイッチのその先の基板パターンが液漏れで断線していたことが原因で、バイパス線で結線して回復しました。

ビスを外せば、前面パネル＋スピーカーと、後面パネル＋シャーシに分かれます。これまで何度か分解されたためか、ビスのネジ山がダメになっているものが多いのですが、このビスの代替品がなかなか見つかりません（長いタップネジは一般的でないよう）。スピーカーは鋼線で前面パネルに固定されていますが、それを抑えている樹脂特記が折れていたため、鋼線とスピーカーが外れ、がたがた鳴っていました。外観の割に内部のスピーカーが汚く、環境の良くないところで使用されていたみたいです。

液漏れがひどく、マイナス極のばねがなくなっていました。周囲にも漏洩が広がっていました。

メイン基板のパターン側です。シールドが液漏れでさびさびになっています。

シャーシと基板の分離ですが、まずはネジ止めされたスケールを外します。知恵の環のような感じですが、ネジを外して、右下側に抜いていく感じです。

ここでは、糸を外してしまっていますが、金属板のビスを外せば、糸掛けを外さすにシャーシと基板は分離できそうです。

シャーシから外したメイン基板の実装面です。スイッチ類等すべて基板に取付られており、配線は少なくなっています。

サブ基板です。トーン切替スイッチ、検波切替スイッチの他、低周波増幅用のICがコンデンサーの後ろにあります。

シャーシの糸掛けを外した部分です。

とりあえず、糸のルートだけ仮止めしておきました。

バリコン側のギアとスケール側のギアは、この部分で分離できます。バリコン側はクラウンギアになっています。グリスが埃をよぶのか、こてこてになっていました。ふき取りましたがピカピカにはなりませんでした。

外部電源を使用していなかったので気づきませんでしたが、端子の接続部のはんだが外れを発見しました。はんだ付けし直しました。

スイッチ類は基板に直接取り付けられていおり、これらには、機械的に位置を止める機能がついていません。（スライドボリュームのように、ここでも止まります）。位置決めは、レバー側にボール・スプリングを使った機能が付いています。

まずは同期検波の切替スイッチを確認しました。足が8本あり、2回路3接点のスイッチのようで、1回路分のみ使用しているようでした。

見にくいですが、1回路分の端子は1つが、離れた部分にあり(1)、残りの3つは等間隔(2,3,4)に並んでいます。4の方がUPPERの位置になります。1が共通の接点かと思い、基板上で1と4をショートしたところ音声がでたため、スイッチの不良と思って外しました。

分解したら確かに内部は黒変していました。しかし、内部の構造は私の思い違いで、共通接点は2にになっていました。よく考えたら、この配置が合理的で、3接点のスライドスイッチは、基本こうなっているみたいです。とりあえず接点は磨いて、少し接点潤滑剤を付けて復旧しましたが、音はならずでした。取り外した後の、スイッチ単体の動作確認を忘れてしまいましたが、このスイッチの動作は問題なかったようです。

配線を追って確認していくと、このライン(SYNC UPPER)は、基板の一番淵の通ってIC3の周辺に繋がっており、この部分の導通がNGでした。基板の一番電池ボックス側で、液漏れによってパターンがやられてしまったようで、一部白く変色しています。このラインのバイパス電線（黄色）を取り透けることで普及しました。予防的に、白く変色していたもう一つ上のライン(SYNC LOWER用)もバイパスライン（青色）をつけておきました。

スピーカーですが、欠けてしまったプラスチックの突起のは2か所ですが、1か所しか欠片がなく、接着剤で留めてみましたが、強度的にも厳しかったため、とりあえず仮補修ということで、簡単に外せる木片と弾性のある接着剤で固定しました。

シャーシと基板を合体後して、糸をかけ、スケールを取り付けました。他にもやり方あるかもしれませんが、スケールは、針を一番左にして、右下から斜めにいれるとうまく入りました。シャーシと基板はジャックの部分や上下、爪がありますので、バリコンを最小側にして、各所を見ながらはめ込みます。

修理完了です。回路図等の資料があれば、もう少し効率よく修理できたかもしれません。症状から不具合箇所を探すまでに、電池やコンデンサーの液漏れのダメージがあるところは、まず導通チェックというのも、大事かもしれません。

腐食で朽ち落ちたマイナス極の金具は、ホームセンターのばね（1.1mm)を買ってきて加工しました。オリジナルはもう少し太いので、1.4mmにもチャレンジしましたが、普通のペンチでは加工が難しい感じです。（写真の長さでは、長すぎて電池が入らず、後から5mmほど切断しています。）

カタログ情報等

製品のしおり 52 P92

感度・選択度・出力をより高めた「エクストラ感度」設計。ビートノイズに強い同期検波回路搭載
NSB1 / NSB2 / FM / MWポータブルラジオ
ICF-EX5

大型パーアンテナ採用等、高感度設計
ビートノイズを軽減し、クリアに聴ける同期検波回路搭載
高感度NSB（ラジオ短波）受信、全6波ワンタッチ選局
選局しやすいMW全国主要放送局名表示（中波）
1.3Wの大出力
音質切替スイッチ

2022/05/22