SONY ICR-9

Serial No.16428

概要

ソニーICR-9はAM専用の薄型ラジオです。スピーカーで聞くラジオとしては、最も薄い部類です。薄さを実現するために、電池はボタン電池を使っています。

ミリQの愛称がつけられております。厚さ9mmに因んで命名されているようで、型番もこれまでの流れに沿わず9が振られています。世界で初めて厚さ10mmを切ったというコピーが使われています。カタログでは「9mmのめまい」というキャッチコピーが使われました。
側面に電源スイッチとダイヤルスケールを設置した変わったデザインです。上部にチューニングとボリュームが配置されています。
専用のしっかりしたケースが付属しています。ケースに入れた状態で、操作やダイヤルの確認ができます。ただ、スピーカーの両面を塞いでしまいますので、イヤフォンでの使用が前提のようです。
1978年のグッドデザイン賞です。この年は時計付きラジオも含めて、7機種のラジオが受賞していますが、ICR-7や松下電器の薄型ラジオなど、同じような薄型ラジオが4機種もあります。
FETを用いた高周波増幅が採用されています。上部に操作部をもっていった都合で、バーアンテナが底部にあり、本体はアルミ製ですが、この部分だけ樹脂が使用されています。
スピーカーはこのころ実用化されたサマリウムコバルト磁石を用いた、厚さ6mmの薄型のユニットを使っています。OSCコイルも細長いものが横置きされています。バリコンも特別に薄いものが開発されたようです。
適合電池はS-76と記されています。S-76は酸化銀電池でSR44相当品のようです。良く見るLR44と同サイズですが、容量が大きいようです。通常は微弱な電流で使うことが多く、条件にもよるようですが、容量は200mAhr程度のようです。修理中に電流を測定しましたら、ボリュームを絞っても10mAも流れていたため、電池寿命はかなり短そうです。
ICが1個とトランジスタはFET含め5個使用されています。ICは局発と中間周波増幅を担っている感じですが、型番はシールドが上面についておりわかりません。宣伝文句にもあるように、高周波増幅はFET(2SK107)が使用されています。他のトランジスタは低周波増幅等に使われているようです。

仕様

発売:

1977年 (昭52和年)

電源:

S-76x2 (3V)

トランジスタ等:

1IC、5TR*

音声出力:

70 mW*

バーアンテナ:

55 mm

スピーカー:

42 mm*

操作部:

電源SW、ボリューム、チューニング

表示等:

受信周波数:

AM:: 530 - 1605 kHz

ターミナル:

イヤホン

シリーズ:

ミリQ

サイズ:

W65mm x H110mm x D9mm

重量:

91g

色:

シルバー

製造:

日本製

価格:

14,800円

メンテナンス

液漏れがひどく、電池金具が緑青で真っ青でした。これをなんとかしてから動作確認です。

電源はボタン電池が2個ですが、派手に液漏れしています。

ビス2本外せば、裏ブタは簡単に外せます。液漏れが内部まで入っています。

裏ブタと本体側です。基板は上部のあたりが両面テープで留められています。

基板側のクローズアップです。4本あるアンテナリードの1か所が外れているのを発見しました。

基板の前側です。チューニングメカ、スケールは基板に取付られています。小型大容量のタンタルコンデンサーが目につきます。最近は高誘電率の積層セラコンが取って代わっている思います。

電池金具です。これを自作するのは大変そうなので、多少不安ありますが、清掃・補修して使用することにしました。

3ピースに分かれています。

バーアンテナ周りの配線は細くて切れそうですので、基板にテープで仮留めしています。

黒いシャーシはボリューム基板がうまく外せず、この状態で作業進めました。

2SC2001が使われています。

外れていたアンテナリードを取付、動作確認しました。アンテナコイルは2つありますが、両端をつなげてセンタータップしており、この部分はFETのゲートに付いており、一端はグランドにつながっていましたので、外れていたのはアンテナ側のバリコンにつながる部分で、バリコンの下側の端子に接続してOkとなりました。

電池金具は接触する部分を重点的に清掃しましたが、一か所はおれてしまっていました。

QI端子の切れ端をそれらしく曲げて、はんだ付けしました。

付いていたファイバー紙をはぼろぼろでしたので、カットアンドトライでそれっぽい形に切り出しました。ファイバー紙は0.35mm厚さのもので（オリジナルはもっと薄そう）、オヤイデ電気で入手できました。

電極への配線もダメになっていたので変えました。負極は簡単に外せるところにありましたので、丸ごと替えましたが、正極はチューニングメカをお分解しないと無理そうでしたので、途中で繋ぎました。

電極とファイバー紙は、オリジナルはどうだったのか不明ですが、両面テープで固定しました。

何とか通電できました。

部品の劣化なのか、周波数範囲が大きくずれていました(729kHzのNHK第1が800kHz以上)ので、普段はあんまりやらないのですが、受信範囲調整しました。トラッキングは、バーアンテナはワックスでカチカチなので、ここはそのままにして、トリマー側だけ最適な位置にしました。

組み上げました。

裏カバーのビスは小さい樹脂の円板で隠すようになっていますが、粘着剤がだめになっていました。最近、塗布後に乾かすと、両面テープのようになる粘着剤が売っていますのでそれを使ってみましたが、使用感良好でした。

カタログ情報等

商品のしおり

商品のしおり31 (1979), p33
世界ではじめて10mmをきった薄型
なんと厚さ9mmのミリQ(AM専用)
ICR-9 ¥14,800

衝撃の薄さ9mm、幅63mm、高さ110mm、重さも99g、とシャツの胸ポケットにすっとしのびこむ超薄型ラジオ
薄さ6mmで豊かな音量を実現したサマリウムコバルト採用のスピーカー、わずか6mmのバリコン、0.8mmのプリント基板、5mmの角コイルなど緻密な技術が薄さ9mmを実現
FET RFアンプ採用により高感度受信
小型・高性能のメカニカルフィルターによる高選択度
スライドルール式チューニングダイヤル

「メカニカルフィルター採用」と書かれています。一般的にはメカニカルフィルターというと、高級機に使われていた、高いQ値を持つ金属製の機械的共振器を使った素子のイメージですが、ここでは機械的振動を利用しているという広い意味で、セラミックフィルターのことを指していると思われます。

2022/12/30
No.154