SONY TR-6

Serial No.15725, グリーン, 前面エンブレム欠品

概要

ソニーTR-6は初期の6石トランジスタラジオです。販売された完成品のラジオとしては、4番目のラジオですが、十分な性能を持つハンディポータブルとしては最初のものと言えると思います。トランジスタは、古い扁平タイプのものが使用されています。

ソニーで最初に販売されたトランジスタラジオは、TR-55で1955年の発売でした。ただ、TR-55の低周波増幅は2石で、ダーリントン接続の2段増幅で出力が10mWと、スピーカーを駆動するには非力で、プッシュプルでなかったので、電池寿命も短かったと思われます。
同年、TR-2K, TR-33という2つのラジオも発売されました。TR-2Kはイヤホン専用のキットラジオで、2石レフレックス回路のいわゆるボーイズラジオでした。TR-33はスーパーヘテロダインですが、やはりイヤホン専用でスピーカーで聞けるラジオではありませんでした。
その翌年の1956年に、6石のTR-72が発売されました。このラジオは、パワーアンプにプッシュプル回路を採用し、て出力は60mWと大分実用的になり、電池寿命も大きく改善されました。ただし、このラジオは、持ち運べはしますが、木製の大型キャビネットで、スピーカー式の真空管ポータブルラジオと、サイズ的には大きな差はありませんでした。
同年、更にTR-72よりもコンパクトな、ハンディポータブルラジオとしてこのTR-6が発売されました。軽量コンパクトで、後にトランジスタラジオの広く使用される、ポリバリコンがソニーで初めて採用されたようです。TR-6は、その後主流になる6石トランジスタラジオの基本的な回路を採用した、ソニーとしては初めての実用的なハンディポータブルサイズのトランジスタラジオと言えると思います。
据置ラジオとして十分な性能を持ちながら、手軽に持ち運びできるというコンセプトで宣伝されたようです。電圧はTR-55と同じ6Vですが、無信号時の消費電流は6mAと半減されており、単2電池の採用と合わせて動作時間は500時間と、大幅に伸びたと思われます。
ソニーがまだ社名を変更する前で、ラベルにはTOKYO TSUSHIN KOGYOと記載されています。TRの数字1桁モデルは、このラジオと前出のキットラジオTR-2K、TR-55のマイナーチェンジ版のTR-5、時代を大分下って1964年頃に発売された海外向けのTR-8の4機種しかないようです。
1956年の大卒公務員の初任給が8700円だったそうなので、その2倍ぐらいの価格となり、大変高価なラジオでした。相当数がアメリカ、カナダに輸出されたようです。
キャビネットは、かなり厚手でです。現在主流のABS･HIPS樹脂ではなく、配線器具などに使用される、ユリア樹脂が使用されているようです。固くて質感も良いようですが、割れやすいようです。この機種のキャビネットは割れ欠け・白化しているものが多いようです。写真のセットも割れによる欠損・白化があります。TR-55ではキャビネットにHIPSが使われているそうですが、強度的に厳しいため、パーツ類の固定に金属のシャーシが使用されています。
薄いラジオで、立てると今一つ座りが悪いです。そのためか、斜めにおいて使えるように背面に金属製のスタンドが付属しています。屋外への持ち出しを重視したのか、ハンドルではなくキャリングベルトが付いていました。本体内部にイヤホンが収納できるスペースが設けられています。販売時には輸送時（特に海外？）の湿気を防ぐためのシリカゲルの袋がこの部分に入っていました。
同時代に、アメリカカリフォルニアのHOFFMANというメーカーから、外観がそっくり（銘板が異なる、ハンドル付き）の、P410・P411というラジオが、同じ頃販売されています。このラジオは、ソニーのOEMということではなく、キャビネット一式をパーツとして供給していたもので、内部の基板や使われているパーツ類は異なっているそうです。余談ですが、P411はP410に充電式バッテリーと上部取手に太陽電池を搭載したモデルで、太陽電池は以外と古くから実用化されていた（効率は低く、ぶっとびプライスだったようですが）あったことを知りました。
あまり数が出回っていないこともあってか、比較的高額で取引されています。写真のセットは、だいぶ状態が悪いこともあり、比較的リーズナブルに安く手に入れることができました。イヤホンケースに出荷時に入れられていたシリカゲルが入ったままでしたので、あまり触られていないラジオだったかもしれません。
トランジスタは6石です。初期のトランジスタに使用された、扁平缶に封止されています。当時のカタログにハーメティックシールトランジスタと記載されており、樹脂で封止されたものをさらに不活性ガスを充填した金属缶に封入したものです。扁平缶の足は、当時の小型能動素子のサブミニチュア真空管のピッチに合わせてあるそうです。
写真のセットはパワーアンプに使用されている2石(2T-61)以外は、型番が記載されていません。資料によると、局発/混合は2T-51、中間周波増幅は2T-52 x2, 低周波には2T-61 x 3が使用されているようですが、時期などによりバリエーションがあるようです。パワーアンプはプッシュプルですが、熱補償のためのサーミスターやダイオードはなく、抵抗のみの回路となっています。25mWと出力も控えめなので、問題ないのかもしれません。
2T-5xはグローン法と言われる、半導体結晶を形成しながら不純物を添加してPN接合を作るプロセスで製造されています。当時としては、高周波特性がぐれていたものの、この型番は製造工程の歩留まりが良くなかったようです。高周波特性の良いものを2T-51として周波数変換に、やや劣るものを2T-52としてIF用に使用していました。2T-6xは接合型のトランジスタで、低周波用です。

仕様

発売:

1956年 (昭和31年)

電源:

単2x4(6V)

トランジスタ等:

6 TR

音声出力:

25mW *2

感度:

500μV(内蔵アンテナ)、50μV(外部アンテナ) *2

バーアンテナ:

180mm

スピーカー:

63mm(2.5インチ) *2

操作部:

電源SW付きボリューム、チューニング

表示等:

受信周波数:

BC:: 535 - 1605 kc

中間周波数:

455 kC

ターミナル:

イヤホンx2

シリーズ:

サイズ:

W225 x H110 x D37 mm

重量:

色:

ライトグリーン(A, 若草)、クリーム(C, 白)、グリーン(G, 深みどり)、マルーン(M, 小豆色) *3

製造:

日本製 *1

価格:

17,500円

*1 本体記載　　*2 別冊回路集　　*3 チラシ

メンテナンス

キャビネットは割れ、欠損が多く、表面も広い範囲で白化していました。セラミックコンデンサーも表面がぼろぼろでした。電解コンデンサーもダメになっているかと思いましたが、低周波は問題なく動きました。ただ、受信はしません。最後のIFT出口、検波用ダイオードの入力側から下流への信号が通りませんでしたので、ダイオードの不良（オープン）のようです。

取り付けたまま導通確認しましたが、双方向とも導通なしでした。1T-23というベークライトのような樹脂でモールドされた、初期のゲルマニウムダイオードです。同じものを見つけるには、当時のラジオから引き抜くしかなさそうです。ゲルマダイオードならばとりあえず使えそうですので、調達して動作確認ぐらいはしてみたいと思います。ごく初期のトランジスタラジオで、多少希少性がありそうですので、元に戻せて当時のパーツを用いて対応できる範囲で修理しようかと思っています。

とりあえず、今回は清掃と物理的な補修に専念しました。このセットはキャビネットに大分痛みがあり、磨きすぎると不自然になるかもしれませんので、ぼちぼちのところまでにしました。

全体にくたびれており、キャビネット白化しています。右中央にあるはずのSONYの当時のロゴのエンブレムが残念ながら欠品です。ピカピカのバーに移ったカメラにピントが合ってしまい、ピンボケになりました。

特に淵の部分の劣化が進んでいます。

キャビネット背面側です。

内部です。イヤホンボックスに、ソニーブランドのシリカゲルが入っています。バーアンテナが固定されておらず、配線も一部切れていました。

ケミコンはトランジスタ用に製造されたと思われる6Vのものがつかわれています。真空管回路向けの高耐圧なコンデンサーも流用されてます。セラミックコンデンサーは、表面がぼろぼろ剥がれています。

基板は2本のビスで固定されていますが、選局つまみを外さないと、どり出せません。つまみはバリコンに直付けですが、ビス2本で固定された前面側の透明パネルを外せば、バリコンのシャフトにアクセスできます。

スイッチ付きボリュームは、イモネジで固定されています。

ソニーの銘が入っています。この部分は真鍮の板のようで、磨けばきれいになります。

選局つまみは、クリアランスが結構ぎりぎりで、基板やバリコンの取付状況やキャビネット状況で、容易に接触してしまいます。このラジオも1,2か所当たって傷になっている部分がありました。

キャビネット背面側です。電池の押さえスポンジがぼろぼろです。オリジナルは残すという考えもあるかもしれませんが、くずが落ちてくるので、除去しました。このスポンジは水性の接着剤を使っているみたいで、水できれいに取れました。

スピーカーです。イヤホン、スピーカー周りの配線は余裕があり、作業しやすいです。

キャビネット前面です。

大きな割れ、欠けががあります。割れは接着剤で補修し、欠けは大きいですが実用上問題なさそうなので、そのままにしました。

左側も割れがあります。

スピーカーは液漏れにより、下側がさびてます。紙やすりで適当に磨きました。

スピーカーのコーン紙です。液漏れのためか、特に電池側に穴が開いています。

和紙を水でふやかしてほぐし、木工用ボンドをごく少量混ぜて補修材にしました。画面中央部が補修場所です。写真を撮り忘れましたが、大きな穴はあまりきれいにいきませんでした。

補修材です。

贅沢なつくりというか、ビスや金具など、部品が多いです。

金属のプレートはビス止めで外せますので、外して簡単に磨きました。

C/UP後の前側キャビネットです。

C/UP後の背面側キャビネットです。

カタログ情報等

チラシ

販促用に販売店に配布していたと思われるチラシです。サイズはB6。

ソニー　トランジスタ　ラジオ
TR-6 トランジスタ6石　スーパーヘテロダイン
トランジスタであればこそ
経済性　パール一本の電気代で一日中聞けます。一回電池を入れれば、500時間持ちます。
故障皆無　真空管のように壊れる心配がありません。（尚、プリント配線により特性が一定して居ります）
薄手軽量　薄手で軽く出来て居りますので御旅行等携帯にも至便です。
¥ 17,500　(電池・ケース共)

「パール一本」の意味が通じませんが、ビールの間違いでしょうか？　1957年のビール大瓶一本は125円ぐらいだったようです。1962年にソニー販売を開始した乾電池は、単2の値段は1本30円でしたので、だいたい値が合います。

2024/05/26

No.212