SONY TR-610

Serial No.371902

Serial No.360009

概要

ソニーTR-610は、1958年発売のポケットサイズラジオです。AM専用ですが、真に胸ポケットに入るサイズのラジオとしてはソニーで最初のモデルで、特徴のあるデザインで海外でも大ヒットしたようです。

このラジオの前年に発売されたTR-63は、コンパクトではありましたが、ソニーのセールスマンはポケットの大きなシャツを着てアピールしていたというぐらいですので、シャツの胸ポケットに入れるには多少無理がありました。その後継モデルと思われるこのラジオは、無理なくポケットに入るサイズで、真の「ポケッタブル」と言えると思います。当時、スピーカー付きラジオでは世界最小を謳っていました。
TR-63もアメリカで大ヒットしたラジオでしたが、このラジオは、それに続く二の矢として、日本国内は後回しにして、海外での販売を優先しています。広告も派手にやっていたようです(http://www.abetterpage.com/wt/japan/Sony610.html)のサイトにいくつか画像があります。
コンパクトなサイズに加えて、当時のポケットラジオとしては性能も良く、曲線的な本体とスピーカーを強調したデザインが好評で、先行して販売された欧米で、大ヒットしたようです。特徴的なスピーカーグリルや、3Wayのハンドルは、すでに市販されていたZENITH社のラジオ(ZENITH ROYAL 500)で採用されていましたが、全体的なデザインが評価されたのか、性能面もあったのか大ヒットしたため、現在も、トランジスタラジオの代名詞的な扱いをされています。
配置を工夫して、チューニングダイヤルと、ボリュームを同じサイドに付けてありますので、片手で持ちながら操作することができます。また、手提げやスタンドにつかえる取ってがついており、机上に置いて聴く際に座りがよいです。
世界で50万台も売れ、この時期のソニーの売上げは、ラジオが半分を占めていたようです。この年に、ソニーは東証一部に上場しています。
日本での発売価格はジャスト10,000円で、1958年の学卒公務員の初任給9,200円よりも高く、相当高額な商品だったと思います。現在だと、ハイエンドスマホという感じですが、日本でもヒット商品となったようです。終盤は8,000円に値下げされたみたいです。
製造時期によって、外観や中身が異なるところもあるようです。初期のものは、前面の"SIX TRANSISTOR"が"ALL TRANSISTOR"になっているそうです。また、内部の型番表示のラベルの位置も異なったりしています。また、裏蓋にあるSONY JAPANの文字入れ部分も、後期のものは型番がはいっていたりいなかったりのようです。
外観が似たラジオは、きちんとした6石のスーパーラジオから、あまり性能の良くない廉価なものまで、たくさん売られたようです。廉価品に対抗するためか、外観はほぼ同じ（金色の部分が銀色）で、トランジスタを1石減らして価格を2割ほど下げた、TR-510も追加で発売されていました。こちらのほうは、もともと数も多くない上に、日本では販売されていないようで、余り見かけません。
回路はオーソドックスな6石トランジスタラジオです。局発・混合は2T-73, 中間周波増幅は2段で2T-76 x2, 低周波初段には2T-65, 最終段はトランス式のプッシュプルで、2T-65 x2となっています。当初、トランジスタの名称は各メーカーが独自に付けていましたが、この頃から、統一した名称を用いるようになっています。何度かの変更を経て、最終的には、2T-73は2SC73, 2T-76は、2SC76, 2T-65は、2SD-65に変更されています。

仕様

発売:

1958年 (昭和33年)

電源:

006P (9V)

トランジスタ等:

6 TR*

音声出力:

無歪50mW / 最大80mW*4

バーアンテナ:

53mm

スピーカー:

60mm *4

操作部:

電源SW付ボリューム、チューニング

表示等:

受信周波数:

MW:: 535 - 1605 kC*

中間周波巣

455kC*

ターミナル:

イヤホン

シリーズ:

サイズ:

W68mm x H107mm x D28mm

重量:

203g

色:

黒、赤、クリーム、グリーン

製造:

日本製*

価格:

10,000円*2, 8,000円*3

*:本体記載、*2:カタログちらし、*3:製品のしおり(S35)、*4:回路図集

メンテナンス

白色のセットです。通電はしますが、受信しませんでした。455kHzの発振器につないだループアンテナを近づけると、きちんと音がでますので、局発回りの故障のようでした。

古いラジオにしては、全般にきれいでしたが、1か所本体に割れがありましたので、接着剤で補修しました。

電池交換は裏蓋ごと外すタイプです。基板を外すには、側面にある2本のビスと、スピーカーに固定されているビスを外します。

基板です。バーアンテナを固定している樹脂のサポートの取付部がグラグラしていました。修理の取り回しで、アンテナ回りの細い線を切ってしまうと面倒なので、先に両面テープでシャーシに固定しておきました。

ソリッド抵抗が使用されていますが、よく見るものよりも細長い形状をしています。トランジスターは古い型番表記です。

IF以降は正常に動いているようでした。局発トランジスタのベースが1.7Vに対して、エミッタが2.1Vでひっくり返っていました。。OSCコイルはそのままで導通確認はできそうで、更にX1を外せば、トランジスタ本体、周辺の抵抗の確認が確実にできそうでしたので、取り外して確認しました。

外したトランジスタです。導通は問題ありませんでした。安価なテスターですが、hFEを測定したところ、130ぐらいでしたので、まあ問題なさそうです。

トランジスタを外した状態で、各抵抗値を確認しました。ソリッド抵抗は、経年劣化で抵抗値が上がっていくそうです。R1,R2は誤差の範囲かもしれませんが、R3は明らかに異常です。入手できた回路図の抵抗値は、製造時期の違いなのかまちまちで、参考にしにくいです。今回は、現物比較でR3の変化率が一番大きい(+40%)ので、ここでまずは調整しました。

トランジスタ復旧して動作確認しました。トランジスタの経年劣化なのか、元の値の1.5kΩ程度にしても、発振しませんでした。800Ωでも数秒で発振が止まる感じで、600ΩでOKという感じでした。手持ちの部品の都合で300Ω程度に設定しました。電流は無信号時で5mA程度でした。

パターン側に1/6Wを足しています。

ボリュームとチューニングつまみが段積みになっています。糸掛けの参考用です。

ボリューム回りは部品が空中配線になっており、コンパクトに向けた工夫が見られます。

一部ひび・欠けていました。力がかかる部分ではなさそうでよかったです。

元の汚れと接着剤の色が前にでてきて目立ってしまいました。

本体は金をアクセントとしたデザインですが、裏面のラベルも金色のものが使われております。

各所にファイバー紙が使われています。ウェブ上の写真とかを見るとないものもありますので、製作時期によって異なるのかもしれません。

本体、基板を掃除して、2mmのスポンジを貼りなおしました。バリコンのトリマーはシリアルナンバーの後ろにあります。

メンテナンス2

黒色のモデルです。受信は問題ありませんでした。ハンドルががたがた、チューニングダイヤルが滑って合わせられない、裏蓋の割れ、シャーシを止めているビス2本が脱落等、不具合対応しました。

シャーシは本体側面に2本のビスは脱落していましたので、、スピーカーの部分に1本で留まっていました。イヤホンジャックとの接続ワイヤーが残りますが、基板は簡単に取り出せます。

滑るので、ダイヤルを分解しました。ダイヤルコードは固くなっていましたが、見た目は大丈夫そうでした。

バリコンの軸が固くで、700kHzあたりから重くなります。ダイヤルコードの不具合ではなく、バリコンがよくないようでした。バリコンに薬剤はご法度とのことで、何度も回しましたら、多少スムーズになりました。ダイヤルコードはアルコールを拭き取って、復旧しました。

ひびが入っています。薄くボンドを塗りこんで補修しました。

側面のビスはとりあえず、手持ちの銀の皿ネジで止めていますが、あとから、黒い低頭ネジを購入しました。旧JISのビスだと思いますが、このサイズ(2mm)は現在のISOネジとピッチは合うようです。

本体内側のラベルです。白のものよりもこちらは少し番号が若いですが、最下段SONY CORPの隣にTOKYO JAPANと記載されています。37万番台の白のやつはこの記載がありません。、

ハンドルは細い針金のようなもので留まっています。一度外して、形を整え、錫メッキ線で留めました。

その他情報

カタログ等

販促チラシ

世界の人気もの　TR-610 10,000円

25ミリの超薄型…その上、指一本で自由に選局、音量の調整ができます。

遂に国内で発売!!　世界でいちばん小さくいちばん軽いTR-610

海外で「SONY」といえば,ポケッタブルソニーといわれるほど,圧倒的好評をえたTR-610が、国内で、いよいよ発売されました

小さく、軽く、スマートなデザインの上、ダイナミックスピーカーより流れる豊富な音量と音質は。いつも、あなたのマスコットとして最適です.
特徴

縦・横・厚さとも6石ラジオでは世界でいちばん小さく, 目方もまた, いちばん軽い
ソニーの新型トランジスタを使っていますから,形が小さくなったのにもかかわらず,すばらしい感度をもっています.
ポケット・サイズのラジオとしては驚くほどの音量が出ます.
同調つまみと音量調整つまみがならんで取りついていますから,片手に持ったまま指1本で選局・音量の調整ができます.
ソニー・バリスタの補償効果により，温度が変化しても，電池の電圧が低下しても，安定な動作が保たれます.また，万一，電池を逆につなぐようなことがあっても，トランジスタをこわす恐れはございません.
ハンドルは，持ち歩くときは手提げになり，据えおくときは支えになります.
スピーカーでもイヤホンでもお聞きになれます.スピーカーはダイナミック式，イヤホンはマグネチック式ですから，音質は清澄で，聞きよいです.

写真の背景はニューヨークかどこか、海外の都会のようです。「世界で売れた」（実際に、ばか売したようですが）感をセールスポイントにしているように思います。

書籍広告

写真は前出のちらしに似ていますが、別バージョンのようです。A5に近いサイズですが、何の本なのかは分かりません。裏面は、カーボン紙の広告になっています。

製品のしおり(35-4K-5)

2022/02/10, Last Update 2023/07/20

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