SONY TR-624

Serial No.68592

概要

TR-624はAM専用の6石ポータブルラジオです。トランジスタラジオが発売されだしてから、比較的間もない頃の商品ですが、普通のラジオと異なるすこし変わったデザインです。ボタンを押すと、上部の蓋が開き、チューニングダイヤル、ボリューム、スピーカーグリルが現れます。オルゴール箱のように、上部の蓋は電源スイッチと連動しているため、チューニングが合っていれば、ワンプッシュでラジオをオンにできます。
上面は、アルミニウム製でしっかりして、高級感があります。大分、時代を下た1974年に、同じようなデザイン、コンセプトのTR-1839が発売されていますが、この路線は2台だけで、一般的にはそれほど受けなかったのかもしれません。卓上ラジオとして割り切ったのか、このラジオには、イヤホン端子がありません。
乾電池は単3が4本ですが、2か所に分割して入れるようになっています。そのため、電池のフタの2つ必要になり、その2つのフタも左右対称なデザインで同じ部品ではありません。つまみの配置等も左右対称を意識した作りになっており、普段は見えない下面もそこに拘ったデザインだったのかもしれません。
販売店向けの販促チラシには、「新しい需要を生む!!　しゃれたセンスの卓上ラジオ、現代人の卓上ラジオアクセサリーにふさわしい、新感覚のデザイン・・・ご贈答用にも差定期です」とセールスポイントが書かれています。しかし、1960年の大卒公務員の初任給は10800円だそうで、この7200円という価格は、ちょっとプレゼントする機会が限定されるのでは持ってしまいます。
躯体はまあまあの大きさなのですが、全般にポケットラジオのような作りになっています。基板はポケットラジオコンパクトで、抵抗はラジアルリードになっています。部品の共用のためかもしれません。ボリュームも、小さいものが使われています。デザインを優先してかもしれませんが、チューニングの表示はラジオの大きさに対して極小です。
バーアンテナ大き目で、外部アンテナ用のコイルも巻かれており、側面に端子がついています。オリジナルの位置ではないのかもしれませんが、なぜかバーアンテナのコイルがフェライトから若干はみ出た位置に固定されていました。
回路はオーソドックスな6石ラジオです。局発・混合には2SC76, 中間周波増幅は2SC73,電圧増幅は2SD64, 最終段はトランス式のプッシュプルで2SB48が2石使用されています。卓上ラジオということでポケットラジオよりも大音量を出せるようになっており、180mWの出力のために、コレクター損失の大きい、2SB48が使用されています。

仕様

発売:

1960年 (昭和35年)

電源:

単3 x 4, 6V

トランジスタ等:

6石

音声出力*:

160mW (無歪), 300mW(最大)

バーアンテナ:

スピーカー*:

60mm, 8Ω

操作部:

電源スイッチ(上蓋)、チューニング、ボリューム

表示等:

受信周波数:

AM:: 535 - 1605 kC

ターミナル:

外部アンテナ

シリーズ:

サイズ:

W184mm x H35mm x D108mm

重量:

418 g

色:

ゴールド/黒

製造:

日本製

価格*:

7,200円

メンテナンス

スイッチの接触がやや悪い以外はガリもなく、問題ありませんでした。小さな周波数表示窓の透明樹脂が脱落していたので、適当なプラ板を取り付けました。

内部は、液漏れによる錆、付着物がひどく、ぼろぼろ落ちてこない程度に戦争しました。やや接触の悪いスイッチの接点みがきと、スポンジがあったと思われそうな位置にスポンジはりました。

外観はへこみなどありますが、まあまあきれいです。

フタの動作は問題ありませんでした。スイッチも、やや接触悪いですが、連動します。周波数助ーーるの除き窓が脱落していました。

昭和35年のラジオということで、ビスはすべてマイナスです。裏ふたを外すと基板が見えますが、液漏れで緑青様の物質がこてこてに付いています。もともとこの部分はスポンジがあったようですが、電池から漏れた電解液が滞留しやすかったのか、分厚い層になっています。

ラジオはなっていたので、パターンに大きなダメージはないであろうということで、へらやサンドペーパーで除去しました。動作問題ありませんので、さっと取れる程度に留めました。

電源スイッチは接点が外側にありましたので、さっと磨きました。

地のままのアルミ缶のゲルマニウムトランジスタが4石ありましたが、液漏れの影響か、薄青色の粉を拭いていました。

スピーカーも液漏れのあとがひどいです。粉が付かない程度に軽くペーパーをかけました。

電源スイッチと電池ボックスをはずすと、シャーシが離れます。

アルミ缶のトランジスタは、サンドペーパーで付着物を落としました。

スイッチは外して接点を磨き、ネジ止め剤で固定されていましたので、タイプは異なりますが、ネジ止め剤を塗ってから止めました。

組み立てなおしました。

電池ボックスのフタです。左右対称に作られています。

電池は外しやすいように、樹脂製の柔らかいスリーブがついています。

表示部の透明カバーの部分は、もとあった接着剤を除去しました。

適当なプラ板を切ってはめ込みました。接着剤は下に垂れると面倒なので、薄手の両面テープで留めました。

カタログ情報等

ソニー製品のしおり

ソニー製品のしおり 36DD10 (1961), p6
TR-624(6石卓上ラジオ)
￥7,200　電池共
しゃれた卓上小型ラジオ。ワンタッチで蓋が開き放送が飛び出します。蓋を閉じるとオルゴールのようにスイッチが切れます。音色のよい6センチスピーカーを使用していますから、小型とは思えないほど豊富な音量です。ソニー独自のAGC回路で強い電波のところでも音がゆがみません。電池は手軽に求められる単3型4本で、とても経済的です。

「ソニー独自のAGC回路」の文言が入っています。この頃から、ソニーの宣伝は技術用語を散りばめたものが常套みたいです。この言葉を聴いても、どれぐらいすごいのかはなかなか消費者には分からないと思うのですが、先端技術のアピールということだと思います。

AGCは自動利得調整(Automatic Gain Control)の略で、電波の強い局、弱い局を手動調整せずに同じレベルの音量で聴くための機構で、真空管ラジオからついているものですが、確かに、トランジスタラジオが広がるについて、いろいろな回路が採用されていたみたいです。

この頃ソニーでは、検波後の音声出力を、1段目のIF増幅のトランジスタのベース電位に帰還させるゲイン調整に加えて、これにより減少したこのTRのコレクタ電流を、更に局発・混合用のTRのベースに帰還させるAGCが使われ始めたようで、このラジオの回路もそうなっているようです。

2022/08/02