SONY TR-819X

Serial No.50054

概要

SONY TR-819Xは、MW/SW2の8石バンドポータブルラジオです。大きさとしては、宅内で手軽に移動できる、中くらいの大きさです。最大の特徴は、NSB（日本短波放送、現在のラジオ日経）の同調を容易にする、水晶発振子を内蔵しているところだと思います。

NSBは1954年に株式市況の放送が主目的に開局していますが、夕刻は連日野球のナイターを放送していたことから、SWバンド付きのラジオの人気が高まり、各社からSW/MWの2バンドラジオが発売されています。このラジオは更にNSBの受信を容易にする、水晶発振子が内蔵された機種としては、ソニーで最初の機種です。
短波帯では、通常のLC回路の局発ではダイヤルでの調整もシビアで、発振回路で安定性もそれほど高くないことから、中波に比べると受信安定性は低くなりがちです。その対応の一つとして、局発側のバリコン容量を微調整するファインチューニングがついている機種もありますが（この機種にも付いています）、更に同調しやすく安定した受信のために、「NSBクリスター」と呼ばれる水晶発振子が、LCの共振回路に並列で挿入されています。
現在のラジオ日経は2つのプログラムがあり、周波数帯は3,6,9MHzがあるため（現在は一部は常時はつかわれていないようですが）6つの周波数がありますが、第1・第2プログラムに分かれたのは、1963年でこのラジオの発売当時は3つでした。クリスターには3つの周波数(3.925, 6.055z, 9.595MHz)が記載されています。実際の発振子の振動数は、これに中間周波数0.455MHzを加えた値になります。
受信周波数に対応した局発周波数付近にダイヤルを合わせると、水晶発振子が正確な発振を開始して安定した振動をリードする仕組みのようです。クリスター内部は、発振子が直列に入っているのか並列に入っているかよくわかりませんが、部品には3つの周波数が記載されています。基板左下にある緑色の部品で、戦前からある通式会社の東洋通信機製で、部品単体でしても販売されていたようです。"Crystal"ではなく、"Cryster"と表記されており商標だったのかもしれません。
水晶発振子は少々バリコンをいじっても局発の周波数が変わらなくなりますので、周辺の周波数の局が全く聞こえなくなってしまいます。
クリスターを内蔵しないシンプルな2バンドモデルも、TR-819として発売されています。11,000円と、1200円ほど安くなっています。
イヤホン端子が2つついています。この時代のラジオではよく見ます。住宅事情がまだそれほど良くない時代で、回りに音を漏らさず2人で聴くというシチエーションがあったのでしょうか。
8石のラジオです。この時代の8石のラジオには、高周波増幅に1石振っているものもありますが、このラジオは、局発と混合に別々のトランジスターを用いる他励式で、ここに2石使われています。手持ちの個体では、ソニー製ではなく松下のPNPの2SA70が使われています。中間周波増幅には2SC76が2個、低周波ドライブアンプは2段増幅で2SD65 x2, 電力増幅はトランス式のプッシュプルで、2SB49x2が使われています。

仕様

発売:

1962年 (昭和37年)

電源:

単2x3, 4.5V

トランジスタ等:

8 TR

音声出力:

バーアンテナ:

160 mm

スピーカー:

楕円形

操作部:

電源SW付ボリューム、チューニング、ファインチューニング、トーンSW、クリスターON/OFF SW

表示等:

受信周波数:

AM:: 535 - 1605 kC
FM:: 3.9 - 12 MC

ターミナル:

イヤフォンx2

シリーズ:

サイズ:

W184mm x H102mm x D48mm

重量:

620 g

色:

黒、赤

製造:

日本製

価格:

12,200円

メンテナンス

雑音はしますが、受信できませんでした。あと、前面のグリルがへこみ、本体に欠けがありました。内部を確認したところ、液漏れ跡がひどく、以前にいろいろさわったあとがあり、ビスが何か所か紛失し、1か所は受け側が真鍮のスペーサーで、折れて取り出せない状況になっていました。

1段目のIFから455kHzの信号を入れると音がでますので、IF～AFは問題なさそうです。局発もダイヤルの値+455kHzの正弦波がでていることも確認できましたので、不具合は独立しているミキサー回りと思われました。

このトランジスタ(2SA70)のB-E電圧を測ると0.4Vもあったため不良と思い、アナログテスタで導通をチェックしたところ、E→B, C→Bの順方向とも200Ωぐらいでそれほどおかしくない値でした。再度、電圧を再測定したところ0.2V程度で、エミッタ電流も正常値になってしまいました。原因不明ですが、念のため周辺のはんだを再溶融させて問題ないことを確認しました。

スピーカーグリルの中央部が大きくへこんでいます。

裏蓋を外すには、イヤホンジャックとアンテナ線を外す必要がありますが、ビス、ナットの固定なので、はんだを外さなくても大丈夫です。

前面側です。バリコンの右下に見える緑の部品がNSBクリスターです。ビズが3つほど欠落しており、いろいろ手を加えられているのかもしれません。

裏蓋側です。プラスチックの一体ものですので、丸洗いしました。

マイナス側の端子ですが、液漏れによる、白い付着物が多く付着していました。固着がひどく、金属へらで落としました。メッキが剥げてしまっているので、長期的には何か防錆処置が必要かと思いますが、とりあえずそのままにしました。

プラス側の電極に、トーンSWとクリスターのスイッチが取り付けられています。マイナスのちいさビス・ナットで取り付けられていますが、固着してねじが回りませんでした。古いネジで、壊すと代品がなさそうなので、分解せずにこの状態でできる限り清掃しました。

基板は5か所で留められていますが、2か所はビスが脱落していました。スピーカーは3か所でナット留めになっています。

スピーカーを外せば、シャーシ・基板が取り出せます。

スピーカーのへこみ部分が押せる場所でしたので、修正しました。

修正・クリーニング終了後です。

ボリュームつまみがぐらぐらな原因は、ビスが緩んだまま無理につかったためか、つまみの受け側の窪みが変形・拡大していました。

パテで埋めて元の形っぽく盛りました。

電池のスリーブが割れてしまっていました。薄い部品でかつ接着剤が効きにくそうな材質で、見えない場所ですので、強度的はしっかりしているポリイミドテープで補修しました。粘着度はいまいちかもしれません。

一度組み上げたら、からから音がします。

もともとひびがはいっていたのか、ネジを締めたときに受け側が割れてしまいました。

最近よく使っている、2液アクリル系の接着剤で固定しました。ネジ止め問題ありませんでした。

スペーサーの両方に雌ネジが切ってある部品ですが、上側のビスの頭が折れてしまし、軸が取り出せなくなっています。専用の工具があれば取り除けそうでしたが、ぐらつき等は特にないので、そのままにしました。

動作の最終確認をしてから組み直しました。紛失していたクリスター近くのシャースと基板を留めているビスは、M2.5の普通のプラスネジがはまりましたが、古い規格のネジは2.6mmのようです。

NSBクリスターです。バリコンで隠れてみえませんが、反対側の側面に、「東洋通信機」と掛かれているようです。戦前から軍用の通信機なども生産していた会社のようです。

カタログ情報等

ソニー製品のしおり

ソニー製品のしおり (1963?), p14
TR-819X ¥12,200
楽しい2バンドの標準型。NSBクリスターで日本短波放送の受信が容易です。すぐれた音色の新開発大型楕円スピーカーを用い豊かな音。好みの音質が選べるトーンスイッチ付
8石2バンドポータブル

2022/12/14