SONY TR-84

Serial No.74865

概要

ソニーTR-84は1959年発売のMWトランジスタラジオです。中波1バンドのラジオとしては8石のトランジスタを使用しています。高周波増幅回路を組み入れた、高感度が売りのラジオです。

トランジスタ8石を搭載した、当時のラインアップで高感度を売りにしたMW専用ラジオです。高周波増幅回路がついており、微弱な電波の受信に有利です。バーアンテナも大型のものが使用されています。当時のカタログで高周波増幅を採用しているのはこのモデルだけで、ソニーのトランジスタラジオで最初の高周波増幅付ラジオだったかもしれません。
高周波増幅は、三連バリコンを使用した同調式です。裏蓋の内側の銘板にも、"USING TUNED R.F. STAGE"と記載があります。バーアンテナ-バリコンで同調した信号をトランジスタにより増幅し、そのあと高周波コイル-バリコンで同じ周波数で同調させで、目的の受信周波数付近を信号を選択的に取出します。
このラジオのバリコンには、機械的な減速機が組み込まれており、チューニングが大変やり易いです。エアバリコンは、一般的に最小から最大まで180°ぐらい回転しますが、それまでに主軸を3回ほど回す必要があります。回転角度の減速比でいうと1:6ぐらいです。
操作・表示とも前面右側に集められています。機能的にも使いやすいですし、デザイン的にもすっきりしたものになっています。ホディー色は4色展開で、全般にくすんだ色調です。ライトパーシモンはレンガ色、ダスティーグリーンはくすんだ緑色です。
低周波増幅の部分を分離できる端子がついています。検波後の出力（音量VRの後）を外部に出せますので、より大きなアンプスピーカーへ接続することで大音量を出すこともできますし、補助入力としてレコードプレイヤー等を接続して、アンプスピーカーとして使用することもできます。
MW用の外部アンテナ端子が付いています。また、GNDの端子もありますので、しっかりした外部アンテナを接続できます。
ケミコンは大容量のものは、ナショナル製のものが使われています。数10μFのものはブランド名がありませんが、樹脂製のものです。最近は見かけない樹脂製ですが、どうも容量が抜けていることの多いようにおみます。
高周波増幅付でもあり、トランジスタは8石使用されています。資料では、旧型番のトランジスタが使われており、高周波増幅と局発に2T73(2SC73)、中間周波増幅は2T76(2SC76)x2, 低周波ドライブアンプには2T65(2SD65)x2, 最終段は2T69となっています。ミキサーはトランジスタでは無く、ダイオード1T23が使用されています。
途中でトランジスタの型番表記が新しくなったり、最終段が変更になっています。写真のセットはシリアルが70000台ですが、高周波増幅・局発が2SC73、中間周波増幅は2SC76 x 2段、低周波ドライブアンプは2SD65 x2段、最終段はPNP型の2SB49 x2です。最終段は表記だけの変更ではなく、PNPからNPNへの変更になります。

仕様

発売:

1959年 (昭和34年)*3

電源:

単2x3 (4.5V)

トランジスタ等:

8 TR*

音声出力:

100mW(無歪)、200mW(最大)*3

バーアンテナ:

160mm

スピーカー:

90mm, 8Ω *3

操作部:

電源SW付ボリューム、チューニング

表示等:

受信周波数:

AM:: 535 - 1605 MC*

中間周波数:

455kC*

ターミナル:

イヤホンx2、外部アンテナ、GND、AF IN、AF OUT

シリーズ:

サイズ:

W187 x H102 x D43mm

重量:

652g

色:

クリーム、チャーコールグレイ、ライトパーシモン、ダスティグリーン*2

製造:

日本製*

価格:

11,800円*2

* 本体記載, *2 製品のしおり(34.3-H-6-3), *3 トランジスタ回路図集2

メンテナンス

ボリュームの接触が悪いですが、あたりのいいところでは、一応は受信しているようでした。ただし、音量が非常に小さいです。全体に中も外も汚れがひどく、本体の欠損もありました。

音が非常に小さい原因ですが、樹脂製のケミコンはダメになっていることが多いので、6つの樹脂ケミコンの部分に容量の近いのケミコンをパラに当てて点検しました。結果的には、容量が大きい30μFが使われている、AF電圧増幅のエミッタの交流バイパス用のケミコンがNG（特に2段目）でした。あと、初段の結合コンデンサーもやや容量が落ちているようで、修理しました。

部品を外さなくて修理できるので、楽ですし実装側の見た目も変わらないメリットはありますが、最新鋭すぎる部品よりも、代替の電解コンデンサーでの修理のほうが自然なのかもしれません。

写真は結構きれいに見えますが、細部を確認できるように、大分露出を上げています。電池漏れの跡などで、結構内部も汚いです。

基板右側にあるビスと、シャーシのナット2か所を外すと、シャーシが取れます。ナットが非常にアクセスしにくい場所にあり、取付取り外しに難儀しました。旧JISのナットは最近のナット用レンチとはサイズがしっくり合わないです。

イヤホンジャックは外さないと、メンテが難しいです。復旧のためのメモ写真です。

スピーカも外しました。埃と、あと、油のようなものが垂れこんでいました。一部穴が開いていましたが、大きな支障はありませんでしたので、そのままにしています。

チューニング機構の部分です。ぎざぎざのつまみは、ローレットに差し込んであるだけです。周波数の表示部は、バリコン側の軸に固定するもので、側面から留められるようになっています。ボリュームのつまみはビス1本で簡単に外れます。

スピーカー、シャーシ外したところです。古いラジオは結構ビスが多用されています。左右のベルトようの金具、ダイヤルの表示部分の透明樹脂カバーもビスナットで固定されていました。

外側も期待です。スリットの部分に汚れがこびりついています。油汚れに埃がついたもののようです。

なるべく丸洗いは避けるようにしていますが、前面側はスリット部分の汚れもひどく、丸洗いしました。後面側は拭き取りだけですませ、きれいになりました。

周波数・ボリュームの表示窓です。ビス止めになっており、六角の窪みがありますが、ビスは本体に埋め込まれているため、この窪みにナットを入れてしまうと、ビスは頭が中にあるため回せません。設計ミスかもしれません。現物はこの窪みにナットがはいらないよう、ワッシャーが使われていました。

ボリュームつまみ、チューニングつまみです。表示のシートが一部剥がれていましたので、接着剤で留めました。

シャーシ裏側です。プリントのパターンも曲線がはいるようになってきています。

特に3つの容量抜けが大きいことが分かりました。引っこ抜いて交換するのが一番心配ないですが、ここでは、部品はそのままにして、パターン側に極小コンデンサーを付け足すことにしました。まずは、コンデンサーに半田を載せます。

2か所は表面実装の22μF/25Vが手持ちにありましたので、それを使用しました。AF一段面の入力コンデンサーは、10μFで、手持ちの表面実装品がありませんでしたので、真っ青で目立ちますた、リード付きの積層セラコンを取り付けました。

内側もきれいに洗いました。

ボリュームは分解できるタイプでした。分解して洗浄剤で洗浄し回復しました。

カタログ情報等

製品のしおり

製品のしおり (1959), p4

TR-84(8石ポータブル高周波増巾つき)　¥11,800(皮ケース,イヤホン,電池現用分共)
(クリーム色、チャーマールグレイ色、ライトパーシモン色、ダスティグリーン色)

高周波増巾つきですから,放送局からどんなに遠いところでも,きれいに電波をキャッチする素晴らしい感度をもっています。9センチのダイナミックスピーカーからの音は,清澄,豊富で,レコードプレーヤーをつなぐと,そのままHiFi電蓄として楽しめます。
大きさ　187 x 103 x 43 mm
重さ　800g(電池とも)

「放送局からどんなに遠いところでも、きれいに電波を・・・」は、現在では誇大広告と言われそうです。ソニーはこの時代、テープレコーダーは得意としていましたが、レコードプレイヤーは販売していなかったようです。

チャーマールグレイ色とありますが、チャーマールという言葉は見つけられません。実際は黒に違いグレーですので、チャーコールグレイの間違いではないかと思います。マとコは似ていますし。

2023/6/19

No.182