SONY TR-86

Serial No.34720

概要

ソニーTR-86は8石のAMトランジスタラジオです。ポケットラジオというにはやや大きいサイズですが、当時としてはポケットラジオとしてセールスされていたようです。

1959年の発売ということで、大ヒットしたTR-610の翌年に発売されています。トランジスタを8石使っており、上位（高感度）機種の位置づけで並行して販売されていたと思われますが、価格的にはほとんど変わらなかったようです。
2石多くトランジスタが使用されてています。トランジスタが多い分、音質や感度面で優位になるはずですが、一方で、大きさは一回り大きくなり、また、ポケットに入れるには約10mm増しの34mm程度と相当分厚くなっているように思います。重量も3割増しで、当時のトランジスタラジオのセールスポイントにしていた、小型軽量という面ではいまいちで、50万台の大ヒットのTR-610と比べると、10万台程度に留まったようです。
金色をふんだんに使った高級感のあるデザインです。TR-610で使われてる3ウェイのワイヤータイプのスタンドは踏襲されています。ただ、この分厚いボディーに、斜めに立てるスタンドはやや座りが悪い感じです。チューニングの部分は簡略化されてバリコン直付けのダイヤルになっており、TR-610よりも細かい調整がやりにくいように思います。
トランジスタは8石です。一般的な6石に対して、ミキサーと局発を別々のトランジスタとしたとこで1石、後は低周波を2段として1石プラスで使用されています。
電源は9V電池です。日本はすでにこの頃、JISにて型番が統一されていましたが、アメリカは各社がばらばらの番号を付けており、当時の主要電池メーカーの型番がずらずらと電池ボックスに記載されています。
写真のセットには、局発に2T73, ミキサーと中間周波増幅2段に 2T76 x 3, 電圧増幅の1段目に2T64(2T6), 2段目と最後のプッシュプルに2T66(2T6) x 3が使用されています。また、検波には1T92(1T23), プッシュプルのバイアスには1T52の2つのダイオードが使用されていますが、これらのダイオードは、トランジスタのようなアルミの細い缶に入っています。括弧内は資料に記載されている型番です。時期によりいろいろな型番や外観の素子が使われていたようです。

仕様

発売:

1959年1月 (昭和34年)*2

電源:

006P(9V), BL-006P(JIS), 216,E146(Eveready), 1604(Ray-O-Back), TR-146R(Mallory)*

トランジスタ等:

8 TR

音声出力:

50mW(無歪), 80mW(最大)*2

バーアンテナ:

60mm

スピーカー:

60mm*2

操作部:

電源SW付ボリューム、チューニング

表示等:

受信周波数:

BC:: 535 - 1605 kC**

中間周波数:

455kC*

ターミナル:

イヤホン

シリーズ:

サイズ:

W74 x H111 x D34mm

重量:

260g

色:

黒

製造:

日本製*

価格:

8,000円*3、10,300円*4

* 本体記載、*2 回路図集2、*3承認のしおり、*4 The magic of SONY

メンテナンス

なぜか本体ケースの4つの角の内、3か所がひび割れ、欠けていました。2か所はかろうじてくっついていたため、接着剤で補修うしました。

動作としては、ボリュームの接触が悪く、あたりのあるところ以外では音が出ないこと、また、バリコンを回すとバリバリ音がして、受信できたりできなかったりしていました。バリコンの接触が悪いでした。

9V電池のスナップの電極が腐食・破損していました。SONYのロゴがついたスナップですが、修理は困難ですので、まるごと取り替えました。

基板は3つのビスで止まっています。が、このビスを外しても、つまみがケースに引っかかり基板は取り出せません。うまく外れないなあと思いながら基板を触っていましたら、つまみがバリコンから外れて、基板が取れました。これは正しい手順ではなくて、ケース上部のビスを外すと、前面パネルの上側をを取り外すことができ、つまみ類を前面側に外すことができます。

プリント基板配線側です。

スピーカーもそこそこ汚れています。

向かって右側の上下は欠けた部品がありますので、接着剤で留めました。

電池スナップを交換して、とりあえず外部電源で動作確認しました。バリコンとボリューム、両方とも接触に問題があるようでした。

ボリュームの方は隙間から接点用スプレーを吹きかけ、拭き取り、動作OKとなりました。

バリコンはスプレーをかけるわけにはいかないので、外して分解しました。

先端がU字型の特殊なドライバーなどが必要です。特殊なビスを4つ外します。

プラスチックのケースはナットとは関係なく、接着剤で留められているようでした。ビスをはずす前に外した方がよさそうです。
裏板にはトリマーが2つ乗っています。それぞれ樹脂薄板2枚と金属薄板3枚で構成されています。

白い背板の内側です。こちらはGND極があり、回転可動する金属板と中央で接触させて導通を取っています。

バリコンのナットを外すと、背板のトリマーの金属薄板や樹脂板が外れてしまいますので、元にもどせるよう、確認しながら外します。

可動接触する部分はここだけのようで、この部分を清掃しました。多層のフィルムをまとめてるピンが見えますが、背板をはめるときは、このピンの位置を合わせながらはめ込みます。

念のため、導電グリースを塗りました。

再度取り付けしました。アンテナとは直接接続されています。

電池用スペースには使用電池の仕様を書いた紙がはられていますが、破れていましたので、ポリイミドテープで裏打ちし、粘着剤を塗りました。

基板の取り外し時は、まずはこちらの前面上部パネルを外して、干渉する2つのつまみを外します。

前面の上部パネルは、上部のビスを外して、上側を手間に引きながら上に引き上げる感じで外れます。

一応バリコンのトリマだけ再調整して修理完了しました。同調時に若干発振気味で、性能上はケミコンも取り替えたほうがよいのでしょうが、とりあえず聴けますので、これでOKにしました。

破損した006P用のスナップです。SONYの名も入っているので、修理できると良かったのですが、妙案がでませんでした。いい修理方法があるかもしれませんので、一応保管しておくことにしました。

乾電池の座り場所には、各社の型番が明記されています。

カタログ情報等

製品のしおり

製品のしおり 35.4.k-5 (1960?), p4

TR-86 (8石ポケッタブル)
¥8,000 (皮ケース・イヤホン・電池共)

遠距離ポケッタブル。すぐれた感度ですからご旅行に最適です。
大きさ　114x71x34mm
重さ　290g
色　あか・くろ・クリーム

他のラジオに比べて説明がかなりシンプルです。すぐれた感度とありますが、確かにTR-610よりもスペック上の感度は優れているようです(TR-86:100μV/m-10mW, TR-610:400μV/m-10mW)。この感度はノイズを考慮しない感度ですので、実用上の差ははっきりしませんが、バーアンテナの長さはそれほど変わりませんので、独立したミキサーにより高い利得が得られているのかもしれません。

2023/07/25

No.187