SONY TRW-621

Serial No.不明、前期型

Serial No.37319, 時計のリューズが欠品, 後期型

概要

ソニーTRW-621は、1960年発売のAM専用のポケットラジオです。腕時計サイズの手巻きの機械時計が内蔵されており、タイマーやスリープの機能があります。

時計付きラジオとしてはソニーで最初のラジオです。同じような時計付きポケットラジオとして、ナショナルからT-98, Portalarmというのが販売されていたようですが、1962年の発売のなので1960年の発売は、国内では一番早かったかもしれません。しかし、当時のソニーのカタログ等では、「世界初」とかの表記が見られません。「世界で初めての」キャッチが好きなソニーがアピールしていないということは、世界を見渡すとどこかに先発がいたのかもしれません。T-98ですが、機能もさることながら、外観もこのTRW-621と非常によく似ており、松下電器の方針はすでにこの時代から貫かれていたようです。
当時のソニーの型番の基本はTRでしたが、ポータブルな時計(=Watch)付きのラジオということで、Wが足されているようです。TRWが付くモデルは3台しか発売されなかったようです(他の2台は、TRW-625、TRW-734)。据置の時計付きラジオはこの後も販売されていますが、ポータブルな時計付きラジオはこの3台のあとは、マイコン搭載のPLLラジオまで長い間販売されませんでした。なお、据置タイプの時計付きラジオは、C (Clock?)やA(Analog Clock?)等の追加文字が使われました。
前面は金を前面に押し出した高級感のあるデザインで、スピーカーグリルもきらきら輝いて見える加工です。スピーカーグリルの中央には、角ばった"S"のロゴが、かなり控えめに貼られています。本体は完全な直方体ではなく、前面からみると下に行くほどすぼまっており、底面に傾斜が付いており、立てると少し後に傾くようになっています。
タイマー機能ですが、MANU(AL)とAUTOの切替スイッチがあり、時計に組み込まれたスイッチとパラに入れられています。AUTOにすると時計側のスイッチが動作します。時計連動スイッチは、風防部分を回転させて赤い三角マークを動かして設定します。設定時刻から30分程度現在時刻が進むまでは、スイッチがONになるようになっています。MANUにすると、時計側スイッチは短絡され、タイマーによらずに常時通電となり、普通にメインの電源スイッチでの操作になります。
AUTO側にして、赤いマークをラジオを鳴らしたい時刻に設定すると、その時刻にラジオが動作し、30分後に切れます。設定時間を現在時刻にしてラジオ付けることで、30分後にラジオが切れるスリープ機能としても使用できます。AUTOで自動で使用する場合は、メインの電源スイッチ(VOL兼用)はONにして、選局と音量をセットしておく必要があります。
時計ユニットはセイコー製です。腕時計サイズの手巻きのゼンマイ式で、1日に1回巻いてくださいと説明にあります。時計の文字盤には上側にはSONYの文字が、下側にSeikoの文字が入っています。風防部分はタイマーセットの際に回しやすいように、周囲が凸凹しています。
下の方にあります、日本での宣伝用パンフレットには、なんか仕事のできそうなビジネスマンが胸ポケットから出し入れする写真が使われていますが、腕時計の代わりに持ち歩くサイズではなさそうですし、当時どのような使われ方をしていたのでしょうか。旅行とかには良さそうです。
前期型と後期型があるようです。回路には変更はないみたいですが、プリント基板のパターンや、時計スイッチ回りの配線ルートが変更されています。基板の設計変更の目的はわかりませんが、目に付く違いとしては、後期型は、基板外周を回っているGNDのラインが削除されています。過渡期には変更点が混じっているものもあるようです。写真のベージュのセットは、基板は変更されていませんが、タイマースイッチ回りの配線は変更されています。
また、基板変更のタイミングと同じかどうかはわかりませんが、本体のカラーバリエーションも変更があったようで、最初にあったベージュ(写真の1台目のセット、ベージュというよりもレンガ色ですが)は、赤に変更されたようです。また、キャビネットの前面は、本体が黒のものは黒、それ以外は白になっているようです。
初物食いの人に受けたのか、オークション出品をそこそこ見かけますので、相応の台数が売れたようです。ただ、不動品、リューズ欠落品が多いように思います。このラジオは、乾電池が時計ユニットのちょうど裏側にあり、液漏れした場合に時計を直撃してしまいます。手元にある3つの時計不動品のうち2つは、裏側のビスがさびさびで、中を開けていませんが、液漏れが故障品の多い原因かもしれません。
機械時計は今でも高級品が販売されていることもあり、今でも修理業者がたくさんありますが、大変高額です。このラジオの時計は比較的簡単な部類になりそうですので、すこし修行して道具を買い集め、手をつけてみたいものです。
このモデルは海外でのサイトでもよく見かけます。北アメリカ、欧州でも販売されていたようです。ソニーは、アメリカでは当初はDelmonicoというディストリビューターとパートナーを組でいました。しかし、両社は、トランジスタテレビの取扱をめぐって対立し、1960年に契約解消、ソニーは新たに現地法人を設立しました。このモデルは、最初からソニーが販売したようで。ソニー自ら、雑誌等の広告も行っていたようです。$50程度で販売されていたようですが、経済情勢を加味して、日本より高い価格設定のようです。
日本では、途中で若干価格が変更になったようです。インフレ対応か競合対応なのか、詳細はよくわかりませんが、10,300円から10,000円に、3%ほど値下げされています。
回路はスタンダードな6石トランジスタラジオで、すべてゲルマニウムです。周波数変換には2SC73, 中間周波増幅には2SC76 x 2, 低周波ドライブアンプには2SD64, パワーアンプはトランス式プッシュプルで、2SD65 x2です。スピーカーには、当時よく使われていたキノコ型と呼ばれる、コーンの傾斜が逆で中心のコイル部が前でているものが使用されています。コンパクトで効率が良いという触れ込みでした。

仕様

発売:

1960年 (昭和35年)

電源:

JIS BL006P, EVEREADY 216 / E146, RAY-O-VAC 1604, MALLORY TR-146 *1 (9V)

トランジスタ等:

6 TR

音声出力:

120mW (無歪) *3

バーアンテナ:

50mm

スピーカー:

55mm 8Ω　*3

操作部:

電源SW、ボリューム、チューニング、タイマー切替SW、リューズ(時計ネジ巻き、時刻合わせ)、タイマーセット

表示等:

アナログ時計

受信周波数:

AM:: 535 - 1605 kc *1

中間周波数:

455 kc *1

ターミナル:

イヤホン、外部アンテナ

シリーズ:

サイズ:

W66 x H103 x D29 mm

重量:

198g

色:

黒、グレー、ベージュ、赤

製造:

日本製　*1

価格:

10,300円 *2 / 10,000円 *3

*1　本体記載　　*2　商品のしおり　　*3　販促チラシ

メンテナンス

その1

時計は動きました。一日30秒ほどのずれで、機械式時計としては精度も問題なさそうです。一方、ラジオは通電はしますが受信しませんでした。ボリュームの接触も不良でした。
シグナルインジェクタで確認したところ、局発・混合のトランジスタのベースから信号が通りましたので、中間周波以降はOKで、OSCの帰還側の導通も問題なさそうでした。
局発不良のようで原因はトランジスタ不具合でした。経年劣化と思われます。NPNの高周波用ゲルマニウムトランジスタは、採用した製法上、ソニーとNECしか製造していなかったようで、主流でなかったためか、現在では入手が難しいです。PNPタイプは2024年時点で、まだ探せば在庫のあるパーツ屋さんがありました）。

後側キャビネットは電池交換で開けるタイプです。上部の時計ユニットがありますので、バーアンテナは底部にあります。

基板/バリコンはビス3本で留まっています。

時計ユニットです。取り外し中に、タイマー用の配線が取り外し中にポロリと取れてしまいました。時計には透明部分がありますが、この部分からコチコチ動いている部品が確認できます。後ろ側は、配線用の端子と、リューズを止めてそうなビスがあるだけで、樹脂の一体物になっていますので、分解は前側から行うようです。

スイッチの接続部分は、Y字型の金具になっていますので、緩めるだけで金具・配線は外せます。

周波数変換まわりの故障のようです。手を付ける前に、写真を撮りました。

トランジスタの電圧を測定しましたが、ベースが3.93Vに対してエミッタが5.46Vとひっくり返っていました。トランジスタはNGと思われますので、取り外しました。テスターのダイオードモードでチェックしたところ、本来BE,BCのみ0.2V程度で電流が流れ始めるはずですが、BEは0.3V, BCは0.45V、本来導通しないCE間が0.9Vと不良でした。

ゲルマニウムの代替品が入手できないので、やむを得ず、シリコントランジスタ2SC1815で代用することにしました。使えないかもしれないので、とりあえずバラックで取付け、バイアスの抵抗を調整していくことにしましたが、周辺の抵抗も経年でずれているのか、そのままで受信し、少し調整してみましたが大きな差はありませんでしたので、結局トランジスタだけ交換という形になりました。

トランジスタのあった部分です。このセットでは蝋で固められいました。

キャビネットは水、アルコール、樹脂クリーナーで清掃しました。

交換後のトランジスタです。元の場所に収まりました。結果だけみるとゲルマニウムトランジスタをそのままシリコンに置き換えた、何も考えてない修理みたいになってしまいました。たまたまマージンの範囲内とか、周辺抵抗の劣化とのバランスによるものと理解しています。

交換後に無信号時の電圧を測ると、R1が0.45V、R2が3.30Vでした。それぞれ、10k, 100kですので本来は1:10になるはずですが、R2を100kとすると、R1が15kぐらいあることになります。ソリッド抵抗は経年劣化で抵抗値が上昇していくそうです。R3は2.8Vぐらいですので、マニュアルで指定されている値の範囲内のエミッタ電流が流れている。

この時代のケミコンは容量がなくなっていることが多いのですが、どれもOKそうでしたのでそのままにしました。スピーカー、その他接続し直してテストしました。普通に聴ける状態になりました。

時計、基板を組み直しました。

その2

ラジオはボリュームの接触が悪いことと、やや周波数表示がずれていること以外は問題なさそうでした。ボリュームはベークライトのカバーを外せば内部清掃できそうでしたが、非常に固かったので、隙間から接点用スプレーを少量吹き込むだけにしました。
時計はリューズとその軸(巻真)が脱落しており、動作確認できません。古いものは補修部品の調達が難しいので、修理業者は専用の棒を加工して補修パーツを製作するそうです。また、ある程度規格があるのか、アマゾンで修理用にリューズや巻真とのセットが販売されております。しかし、クオーツの置時計のユニットと異なり、大分精密な機器で工具もありませんので、とりあえずそのままです。完全ジャンク品でも入手できたら、一度中を見てみたいものですが。
このラジオは、裏側に「優良従業員5回賞　久保田鐵工株式会社」の金の文字入れがあります。久保田鐵工所は現在のクボタと思われますが、10000円は当時の貨幣価値ではかなり高額商品です。

こちらは後期型のようです。バーアンテナのホルダーがだれてしまい、アンテナが止まれなくなっています。がちがちの接着剤のなんですので、外せるよう粘着剤で留めました。

時計の上が電池ケースになっており、あまり構造が良くないです。プラスチックの電池ホルダーには、液漏れの後があります。

時計と基板、スピーカーはビス・ナットを外せば分離できます。

キャビネットとコーナーに割れがありました。力をかけなければふさがる程度の割れなので、粘度の低い接着剤で留めました。

前側キャビネットです。スピーカーグリルなど、複雑なところがありますので、丸洗いせずに、縫拭きしました。

スピーカーはブラシで掃除しました。中心部が前側に出ている、キノコ型スピーカーです。

時計ユニットですが、リューズが無く、ビス3本ともさびさびになっています。なんとかしたいのですが、とりあえずこのままにしました。

キャビネット清掃・補修後です。

組み直しました。電池を乗せる白い板は、上下があります。右上は6角ナットで留めますので、ネジ止め部のスペースが少し広くなっています。

カタログ情報等

製品のしおり

製品のしおり(1960), p

TRW-621(ウオッチ好き6石ポケッタブル)
¥ 10,300　皮ケース、イヤホン、電池共

左の肩に"腕時計"-"がついた動く現代人のポケッタブルラジオです。時計はオートタイムスイッチの役目もしますから、お好みの時刻に目盛を合わせておくだけで自動的にスイッチが入りお好きな放送番組も逃がさすに聞くことができ、また目覚し時計の役目もします。ラジオを聞きながらお寝みになるときなど30分後に自動的にスイッチを切ることもできます。

大きさ 104 x 67 x 29 mm 重さ240g
色　ブラック・ベージ・グレイ

販促チラシ

「歩いていてももう聞き逃しはしない」のコピーです。いきなり路上で大きな音でラジオが鳴り出すと、周りの人がちょっとびっくりな気もします。

2024/08/20

No.222