SONY TR-75

Serial No.10168

概要

ソニーTR-75は1958年に発売された、MW専用のトランジスタラジオです。ソニーのトランジスタラジオとしては、初号機から3年後の初期のものです。コートポケットサイズ、ハンディポータブルサイズのラジオです。

サイズ的には1956年に発売された、TR-6の流れをくむラジオと思われます。ダイヤルの操作場所は異なりますが、バリコンに直付けの大きな選局ダイヤルも似ています。ただ、バリコンは、TR-6で初めて使用されたポリバリコンではなく、金属製のエアバリコンが使われています。重くなりましたが、ベアリングの入ったしっかりしたバリコンで、大きなダイヤルもスムーズに操作できます。
外観が異なり、回路も少し異なりますが、TR-83, TR-608と内部・構造は非常によく似ています。TR-83は1958年の4月、TR-608は7月、TR-75は8月の発売で、ほぼ同時期に製造・販売されていたようです。TR-608は、トランジスタを一つ削ったバージョンになっていますが、アメリカ・カナダ向けで、日本では販売されていないようです。
トランジスタラジオが発売されてからまだ間もないこともあり、コンデンサー等、耐圧の高い真空管用のものが一部使用されています。ソニー製のコンデンサーも使われていますが、当時生産していたテープレコーダー等は真空管式で、それ用に自社生産していたものかもしれません。
ケミコンは、最近一般的な同じ側から足の出ているタイプではなく、両端から出ているタイプです。NCC（日本ケミコン）製です。
前面には、ソニーのロゴではなく、数字の7の七宝焼きのバッジが取り付けられており、7石をアピールしているようです。写真のセットは比較的初期(ほぼ10000)のものですが、後期のものは、このバッチにTRANSISTORの文字が追加されているそうです。また、番号の若いものは、3本の電池をまとめる筒に透明のセルロイドが使用されているようです。
当時、他社もソニーも、トランジスタの製造技術は日進月歩の状況のようで、このラジオは新旧パッケージのトランジスタが入り混じっています。最初のトランジスタから使われてた扁平タイプのトランジスタが4石、ゲルマニウムトランジスタで一般的な、円筒型のキャンドタイプが3石使用されています。途中交換されてオリジナルの部品でない可能性もありますが。
局発・ミキサーには、2T73(キャンド)が使用されています。中間周波増幅の一段めには2T75(扁平)が、2段目には2T76(キャンド)が使用されています。低周波増幅は1段目は2T65(キャンド), 2段目と、プッシュプルには扁平タイプの2T66が3個使用されています。
このラジオにはダイオードが多く使われています。1つは検波用で筒形の1T22が使用されています。1T22はもう一つ、IFTをダイオードでシャントするタイプのAGC回路に使用されています。もう一つは、プッシュプルのバイアスの部分に1T41という、緑色の扁平型のダイオード(バリスター)が使用されています。
1T22は当時の代表的な汎用ゲルマニウムダイオードのようで、ラジオの各所で広く使われたようです。1T23が使用されているセットもあるようです。
1T41は、回路図上ではダイオードとして表示されており、出力段のトランジスタの温度補償用に使われていますが、ダイオードではなく(温度補償用)バリスターと呼ばれていたようです。最近一般に使われる、電圧保護用のバリスターとは働きは異なっています。